2017年に行われた全国2000社を対象にした「兼業・副業に対する企業の意識調査(株式会社リクルートキャリア)」によると、兼業・副業を容認・推進している企業は全体の22.9%でした。業種別の容認・推進割合は建設業が最も多く26%で、次いでサービス業が24.4%、製造業は24.3%、金融・保険業、不動産業22.7%、運輸業、情報通信業18.5%、調剤薬局やドラッグストアが含まれる卸売業・小売業は18.3%でした。

副業・兼業を容認、推進する理由と反対する理由

本調査によると副業を禁止する主な理由は、「特に禁止する理由がない」68.7%、「社員の収入増につながる」26.7%でした。そして、兼業・副業をする際に会社から要求する条件は60.3%が「本業に支障が出ない」とあります。副業を容認・推進している企業の大半は、本業に支障が出ないのであれば、副業を禁止する理由は特にないので、副業を行っても全く問題ないという姿勢がうかがえます。

一方、兼業・副業を禁止している企業の理由は、「社員の長時間労働・過重労働を助長する」が55.7 %と最も多く、次いで「情報漏洩のリスク」が24.4%となっていました。

「社員の長時間労働・過重労働を助長する」が挙げられる理由は、社外での労働時間を正確に把握することは難しいことから、社員の健康管理ができなくなる可能性があるからでしょう。

「情報漏洩のリスク」についてですが、個人情報を取得するようなサービスを行っている企業が敏感になるのはしかたないと思います。例えば、調剤薬局やドラッグスアなどでは、患者さんの生年月日や住所はもちろんのこと、既往歴などの個人情報も知ることができてしまいます。さらに、その薬局の薬の在庫状況やお薬手帳の持参率などの情報を知ることができてしまうことも考えると、情報漏洩に敏感になるのは自然なことです。

調剤薬局やドラッグストアなど企業側の本音とは?

兼業・副業を容認する調剤薬局やドラッグストアなどの企業の人事担当の方に、兼業・副業をする社員の印象や働き方について聞いてみたところ、意外な実情を知ることができました。

兼業・副業をしている薬剤師さんほど仕事に対する責任感が強く、社内でも評判が良い人が多いそうです。また、副業をしていることから自身の健康について常に気にしている人が多く、他の薬剤師さんよりも休むことが少ないと言います。たしかに、薬剤師さんからすると、副業をさせてもらっているという負い目のような感情が生まれているはずなので、他の人よりも仕事に精が出るのかもしれません。また兼業・副業をすることにより、人間関係もが広がるので、一つの企業で働くよりも毎日が充実していると話す薬剤師さんもいるようです。

兼業・副業を容認・推進すると採用力の強化につながる

では、企業側にとって兼業・副業を容認・推進するメリットは何なのでしょうか。それは「人材流出の防止」と「スキルの高い人材を確保できる可能性が高くなること」にあります。

例えば、病院薬剤師の経験を積みたい調剤薬局で働く薬剤師さんというのはいうのは一定層いらっしゃいます。そういう薬剤師さんは、病院へ転職をしてしまうと年収が下がってしまうため、なかなか転職に踏み切れません。しかし、薬剤師としてのスキルを高めたいという気持ちが強くなると転職を決断してしまいます。企業側としては向上心を持って仕事をしてくれる薬剤師さんがいなくなるのは非常に残念なことです。また、そういった薬剤師さんに限って、社内の薬剤師さんや医療事務さん、近隣のドクターや看護師さんとの信頼関係が上手く構築できていることが多くあります。薬剤師というのは比較的売り手市場であることを考えると、同じようなレベルの薬剤師さんを採用するのは困難です。

その他にも、男性の薬剤師さんのケースでは、年収アップのために転職をしたい方が多くいらっしゃいます。男性の薬剤師さんの割合は薬剤師の全体の40%弱で、ほとんどが管理職あるいは管理職に近い業務をしています。この層のπ自体が少ないことを考えると、調剤薬局、ドラッグストアなど各社は、人材確保の争いに躍起にならざるを得ません。

以上のことから、人材流出の防止とスキルの高い人材の確保のためには、企業は兼業・副業を容認し、働き方の選択肢を柔軟に受け入れた方が良いのではないかと考えらます。薬剤師さんの中には、兼業・副業が許可されるなら転職先の一つとして考えたいという方もいらっしゃいます。現在転職先をさがしており、転職先が兼業・副業がOKであれば、それ自体が入社の決め手となることもあるようです。

現在、薬剤師業界においても、働き方の選択肢が広がりつつありますので、この機会にご自身にとっての一番良い働き方についてを見つめなおしてみると良いかもしれません。

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