薬剤師の働き方が変わる時

薬剤師さんにとって、薬剤師の技能を使いながら他の職場で働くことのメリットは何だと思いますか?また、企業にとって副業人材を雇うメリットは何なのでしょうか?城西国際大学薬学部の准教授であり、大手チェーン薬局の人材開発部長も経験し、現在は人事コンサルや経営コンサルを行っている(株)ツールポックス代表取締役の富澤崇氏に副業の魅力について伺いました。

求職者からみた副業をするメリット・デメリット

編集部:富澤さんは元大手チェーン薬局の人事部門のトップとして、採用や労務管理はもちろんのこと、職能開発や人事制度の構築などを行っていらっしゃいましたね。現在は経営や採用のコンサルをされていらっしゃいますが、これまでのご経験から薬剤師からみた副業を行うメリットとデメリットは何だと思いますか?

富澤氏:メリット、デメリットの前に薬剤師が考える「副業」という概念について整理しますね。本来の「副業」という言葉には2つの意味があると思います。1つは薬剤師の専門技能を生かして別の業種で働くこと、2つ目は薬剤師とは異なるスキルを活かして、別の業種で働くことです。

一方、例えばパートとして2つの薬局で働くことを「ダブルワーク」という言い方をしますよね。これは言葉の通りの意味で兼業です。薬剤師自体も、どちらも本業という概念で働いている人が多いので兼業です。病院薬剤師として常勤で働きながら日曜日だけ薬局で働くのは兼業にあたります。

編集部:すきまシストでは副業はもちろんのこと、兼業・ダブルワーク希望の方も対象にしたサイトになります。ダブルワークは以前から行っている方がいらっしゃるのは知っていますが、副業という形で働いたことがある方は少ないような気がしています。

副業の中でも、「薬剤師の専門技能を生かして別の業種で働くこと」についてのメリット・デメリットはどんなことなのでしょうか?

富澤氏:薬剤師が副業をすることのメリットは以下だと思います。

  1. 専門家ゆえに描きにくいキャリアの多様性に気付ける。長期的な視点でみたときには、薬剤師の雇用が減少した場合の備えとして、国家資格以外のキャリアを積むことができる。
  2. 専門家ゆえに希薄になりがちな顧客志向などを、副業を通して育むことができる。すなわち、副業での経験が本業に生かされる。
  3. 副業にやりがいを求めることでバランスが取れる

特に3番目に関しては、一番大きなメリットではないかと思いますね。薬剤師は処方箋応需という業務の特質上、仕事において消化しづらい感情を抱くことが多くあると思います。

例えば、医師との関係性における悩みや、調剤業務が単調だと感じ、仕事にやりがいを感じることができないことなどが挙げられます。そのため、副業として、別の世界で働くことによって普段の仕事とのバランスが取れるのではないかと思うんですよね。

私はこれを「ワークワークバランス」という言い方をしています。欠けたピースをプライベートの時間で補うのではなく、仕事で補うという意味で「ワークワークバランス」ということです。

一方、デメリットとしては一般的なデメリットと言われている長時間労働の危険性や、副業にやり甲斐を求める、またはやり甲斐を感じることで、ますます本業へのモチベーションが下がることが挙げられます。

企業側からみた副業人材を受け入れるメリット・デメリット

編集部:お話を聞いていると副業をすることは薬剤師さんにとって、メリットの方が多そうですね。反対に、企業側からみたときの副業人材として薬剤師を受け入れることのメリットやデメリットはなんだと思いますか?

富澤氏:普段の仕事を通じて聞くことでもあるのですが、比較的高給である薬剤師をフルタイムで雇用できない企業にとって、薬剤師をスポットで活用できることはコスト的に助かるということはよく聞きます。

たとえば、薬局や医療機関向けのシステム開発や機器開発をしているメーカーや販売会社は、自社製品のユーザーではないユーザーをモニターにしたいといった要望を持っています。また、昨今、薬局やドラッグストアをターゲットとした、コンサルティング会社や社員研修会社などの企業が増えている中で、自社で薬剤師を雇いたいものの、常勤ほどの必要性がないというケースがあります。そういった企業においては、薬剤師をスポットで活用できるのはうれしいと聞きますね。

その他には、ヘルスケア関係のライティングの仕事については、薬の専門家である薬剤師に書いてもらうことで企業側として安心感があるという話も聞きます。

あとは、障害者ケア、中毒患者支援、精神疾患患者支援などをしている市民団体や、NPO法人などでは、医療職からのアドバイスを求めていることが多いんですよ。医師に声をかけるのはハードルが高いから、薬剤師さんに代わりにお願いしたいという要望を持っているようです。

一方、デメリットとしては、薬剤師さんの中には、ビジネスパーソンとしてのマナーやエチケットを習得していない方もいるので即戦力としては少し頼りないことが挙げられます。その他には、一般的なデメリットとしても挙げられている情報漏洩のリスクなどでしょうか。能力や適性さえ合えば、薬剤師であることのデメリットはないと思いますので、本人次第だとは思いますけどね。

企業は副業を推進した方が良いか?

編集部:コスト面、そして専門家としての知識を借りることができる面を考えると、受け入れ側としてのメリットは大きいですね。色々おうかがいして気になったのですが、人事部長としてのご経験からして、企業として、副業の推進をした方が良いと思われますか?受け入れ側のニーズがあったとしても、所属組織である薬局やドラッグストア、病院などが副業を許さない限り成立できないことですので。

富澤氏:私は副業の推進については大賛成なのですが、副業を認めるうえで大切なこととして、まず社内で価値観の多様性を認めることです。LGBTや国籍はもちろんのこと、社会的マイノリティーも含めて、「多様性」を認めることからまず始めるべきだと考えています。職業、職場、業務といった従来のわかりやすい枠で従業員をくくったり、つなぎ留めたりするのではなく、理念や哲学といった経営者と従業員の共感でつながることができれば、多様な価値観や考えを受け入れることができ、問題も起こりにくくなるような気がします。つまりは、形だけの副業解禁ではなく、本質的な部分から変えていく必要があるということです。

採用の観点からすると「副業OK」は魅力になり、応募者数の増加になるのではないでしょうか。同時に週休3日制を導入しても良いかもしれませんね。

もちろん、情報漏洩のリスク管理や報告義務など、副業推進に向けた社内ルールのづくりは必須だと思いますけど。
私は、薬学部でキャリアの授業を担当しているのですが、このところ、学生の職業選択に変化が起こっているように感じています。薬剤師だけに興味があるのではなく、語学を生かしたい人、起業したい人、ブロックチェーン技術に興味のある人、人材育成をやりたい人、webデザインをやりたい人など様々な志向をもった学生がいます。こういった学生が増えていきていることを考えると、企業として副業を認めることは、採用上有利になるような気がします。

編集部:副業は働く側(薬剤師)はもちろん、副業をする薬剤師の所属企業、受け入れ側の企業にとってもメリットが大きいようですね。

一方でデメリットも多少あるので、ルールづくりなどを徹底する必要があるのもよくわかりました。副業を認めている薬局やドラッグストアなどは、そこまで多くはありませんが、ぜひ解禁に向けて動いてくれる企業さんが増えると嬉しいです。本日はありがとうございました!

プロフィール
富澤崇
株式会社ツールポックス
代表取締役社長 富澤崇
山梨大学病院薬剤部、城西国際大学薬学部助教を経て、(株)ファーコスや(株)ライフファーマにて、教育研修や人事制度改革などに従事。2013年からは城西国際大学薬学部准教授を兼務。2017年に株式会社ツールポックスを設立し、人事コンサルティング、経営コンサルティングなどを行っている。

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